隷書体と「孔宙碑」の話

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 ドンときてスッ、ぐいーんとしてススンッ。

 こういうのを「隷書体」と言う。

 看板とかで見るときあるかも?あと日本酒とか?隷書体の酒ラベルってかっこよく感じるよね。ついつい買っちゃうよね。

 

隷書体の話】

 こういうのの「こう」ってなんだろうね。なんて言おうね。

 隷書体の特徴はいくつかある。漢字にしては珍しく縦より横に長い字形をしているとか、次の字までが遠くて隣の字の方が近いとか、水平・垂直を意識した画とか、だから肩がないとか、撥ねがないとか、入筆が丸いとか、でも全体は篆書体より丸くないとかとか色々ある。でもたぶん、一番の特徴は「波磔(はたく)」だ。

 横画の中で主役を決めて、それだけ長く引く。まっすぐ引くだけだけど間延びしちゃうので、波打たせる。それが波磔。横画をいくつも波打たせると鬱陶しいし、字として読みにくい。やはり主役は一画。ちょうどいい横画がなかったら、右払いとかを波打たせる。左払いは払わない。なぜなら書いてきた人のほとんどが右利きだったから。左利きの人にはとてつもなく書きにくいと思う。漢字の成り立ちってそういうとこある。

 でも右ばっかり波打つと、バランスが悪い。右が重たくって、字が倒れちゃう。から、左に重りをつける。右にいい画がなければ、左の重りだけの字もある。どっちも丁度いいのがなければ、なんにもない時もある。でも字形や線の引き方は同じだから仲間に入れてあげてほしい。

 波磔は横画の群れの中で特に威力を発揮する。しかし、横画が群れてるときは等間隔になっているのが美しいと言われている(し、実際そう思う)。えっ、波打つ線に?等間隔…とは?このバランスの取り方が難しい。付かず離れず、目立たせなくてはならないのだ。

 こんなややこしい書き方をするようになったにも理由がある。まず「隷書体」は漢字の書体(篆・隷・草・行・楷)の中で2番目に古参。最古参は「篆書体」で、一言でいうと岩に彫ってた字。(前にブログにまとめた「豆腐屋之印を作る話」にちょろっと詳しく出てくる。)

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 その篆書体の流れを受けつつ、人類は叡智により、いよいよ墨と筆というスーパー筆記具を開発した。岩を彫るんじゃなくて、竹とか木とか布に字を書くようになってきた頃、隷書体は産声を上げた。今まで岩に彫ってきた字と同じように、縦画は垂直・横画は水平に引くぞ!でも岩より狭いし小さいから、いっぱい書くためには縦長には書けないぞ!いっぱい書くために縦の長さを抑えるぞ!うわっ、真っ直ぐじゃないから書きにくいぞ!木目や竹の節、布の皺に筆あたって変な太さになっ…えっ!?おしゃじゃない!?!???!?!???この変な太さの線おしゃじゃん!!!おしゃおしゃ!!!!天才では!??!?!??!IQ700なのでは!?!?!!!!?!??!??オギャア

 こうして隷書体は生まれた。(完)

 生まれたては結構控えめだった波磔も、だんだん自信を持ち始めて主張が激しくなっていった。隷書体で書かれた字を元に、沢山の石碑が彫られた。その頂点に「曹全碑(そうぜんひ)」が君臨する。

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石碑は中国に現存しているが、めちゃくちゃ厳重に保管されている。最高傑作過ぎてありとあらゆる人が拓本を採ってきた結果、碑面が傷んでしまって、若干弱弱しさを感じる線になってしまったらしい。でもなんだろうな、美しいよな。波磔の画がとても滑らかで艶っぽいんだけど、それを浮かせないように他の画が調和を取ってる。すごい。たぶん横潰しは一番強い。ぺったんこ。なのに美しく整ってるのは流麗な波磔のおかげなんだろうなぁ。

 次点で「乙瑛碑(いつえいひ)」や「礼器碑(れいきひ)」の名がよく挙がる。隷書体然とし、どれも特徴を兼ね備えている。乙瑛碑は若めの隷書なのでまだ横潰しが弱くて正方形に近いし波磔も短くて控えめ。礼器碑は三角の鋭めな波磔であまり間伸びさせない。…んだけど、その辺の差をあまり出せなかった。

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 それらのいづれでもなく、今回はそこそこマイナーな「孔宙碑(こうちゅうひ)」の話。なにせ石碑の状態が良くなく、見やすい拓本が出回っていない。でも、好きなんだよね~。ファンなんだよね~。

 ということで、復元付の拓本をいただいた。神 IS GOD。私は無敵。

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と、思ったけど、ほんとに拓本がガサガサすぎてこれはかなりの修練が必要だな〜ってなった。

まだまだ礼器碑のくせでしっかり三角の波磔を付けちゃうけど、孔宙碑はもっと滑らかに波打つ感じだった。こんなに「はい!ここが波磔です!」ってしない。うーん難しい。「漢」のバランスとか面白い。付け焼き刃で書くものでもないので、もっと練習して向き合って行きたいなって思いました。諱が宙ってかわいいね。