我が家にやってきたネコチャンの話でも読め

 9月某日、我が家にネコチャンがやってきた。

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【ネコチャンと我が家】

 ことの始まりは数日前。父の会社のシャチョウ家の車庫で、野良ネコチャンが5、6匹の子ネコチャンを産んだ。保護したものの、数匹の子ネコチャンを一気に世話するのは現実的でない。母ネコチャンと離してしまったので、体温調節もミルクも排泄も全てに人の手が必要になる。交代で世話をしても、シャチョウ一家はプロではないのだ。話を聞いた母は、かねてよりネコチャンを飼いたがっていたので大歓喜した。飼いたいけれども買いたいわけではなく、保護施設や保護猫カフェ・譲渡会などにちらほらと偵察をしていた。以前から、父が「獣とは暮らせない」「飼うなら外だ」と渋るので、この時まで実行には至らなかった。本気で飼うのか飼わないのか。夕飯の会話はそれに尽きた。シャチョウという近しい縁もあって、最後は父が「本当に飼うなら、一度直接見に行くべき」と、許可した。私は特に反対も賛成もしなかった。買うわけじゃないなら特に言うことはない。一応犬派だが他を嫌ってるわけでもない。どんな動物にしろ、飼うならきちんと飼いたいとだけ思っていた。

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【ネコチャンときゅー】

 翌日、仕事から帰宅すると子ネコチャン用のミルク・哺乳瓶・トイレシーツがお出迎えしてくれた。早速子ネコチャンたちを見に行った母が、もう暮らす気満々で勇んで買って帰ってきたのだ。段ボールを改造していそいそとネコチャンの寝床づくりに勤しんでいる。その晩、父がネコチャンと一緒に帰ってきた。母はネコチャンだけを大急ぎで抱え入れて、父と私を外に閉め出した。開けろ。

 ネコチャンは、ぎりぎり目が開いたばかり。我が家に来る前に動物病院で診てもらったところ、生後3週間ほどだそうな。ご飯もトイレも移動も自力ではままならなかった。この頃は目が開いていても真っ黒で、まだ見えていないらしい。小さいしふわふわだし、抱えてもまるで重みを感じなかった。あまりに小さすぎて心配になった。親兄弟と離されたことを感じるのか、よく鳴いた。心配からか寝つきが悪く、朝5時には家族全員がネコチャンに群がっていた。(でもたぶん父と母は一晩中、数時間おきに世話をしていたと思う。)

 9月9日ごろに生まれたっぽいから、きゅーと名付けた。後になって、本当はもう一週前だったと気付いた。きゅーと呼ぶときちんと来るので、改名はしない。

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【ネコチャンとミルク】

 きゅーはミルクをよく飲みたがった。空腹時のギャン鳴きはすさまじく、指を吸わせてごまかしながら出来上がりを待った。ミルクのにおいがするのか、きゅーは哺乳瓶にまっしぐら。よく見えていないはずなのに、生存本能はすごい。タオルと毛布の山を這いずり回って突き進む。なぜか哺乳瓶の先っぽをパパパパパパパパパパパッと超高速で往復ビンタするので、そこら中にミルクが飛び散る。大人しく飲みなさい。

 きゅーはミルクが大好きなので、たとえ兄弟たちが離乳食に移行したとか、ミルクがあるとむしろ嫌がるとか、どんどん成長していっても、かたくなに哺乳瓶を離さなかった。それでも歯が生えてきたことで哺乳瓶の先をいよいよ噛みぎってしまい、自ら哺乳瓶の卒業を告げた。残念だったな!固形物を食べるんだよ!離乳食を食べ物と認識するまでに1週間はかかった。

(その後、ウェットフードとカリカリを山ほど食べるようになり、動物病院で「肥満まっしぐら」と言われるまでになる。)

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【ネコチャンと便秘】

 きゅーはしばしば便秘だった。ミルクをたらふく飲んで腹がまん丸に膨れてぽてぽてと転がっていても、小はビシャビシャに出しても、大は一向に出なかった。液体しか摂取してないにしても心配になる。そもそも子ネコチャンのうちは自力で排泄ができないため、小にしろ大にしろ肛門を刺激してやらねばならない。本来なら母ネコチャンがぺろぺろと舐めて促すそうだ。ティッシュでつついたり、腹をなでたり、風呂で温めたり、ネットとYouTubeで見つけた方法で試行錯誤を繰り返すも、出るのはやはり小ばかり。病院で女医さんに根気強く揉んでもらったところ、その場に居合わせた全員が引くほどもりもり出した。そんなにため込んでたのか。

 ミルクを卒業して離乳食になった頃、ようやく女医さんのテクがなくとも大を出させられるようになった。固形物を出すには固形物を食わせんだよ!!

 そこまでくれば、自力でもりもり出すようになるまであっという間だった。今となってはうらやましいほど出す。トイレのへりに手をついて、なぜか立ちながら踏ん張る。なんだろう、巻き具合がいいのかな。時々フローリングにぽろんと転がっていたりする。寝起きや遊びで興奮している時は、無意識に少しだけはみ出してしまうらしい。みんな足元をキョロキョロしながら歩くようになった。この世は地雷原なのだ。

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【ネコチャンとIQ】

 きゅーはたぶん天才ネコチャンで、IQが700くらいある。そのうちハーバードも卒業する。だってトイレを教える前に覚えた。それこそ、ミルクを飲んでいる頃から、尿意を催すと自力でトイレシートまで這い、股を広げて「おう頼むわ」といった感じで待っていた。はい、揉ませていただきます。どうぞお出しください。ニンゲンはネコチャンの召使なのだ。

 目で物を捉えられるようになったきゅーは、おもちゃを手っ取り早く捕まえるにはおもちゃを操っている手を摑まえればいいことに、いち早く気付いた。天才なので仕方ない。我々ニンゲンは毎回アルコール消毒の沁み渡る手になった。IQ700の割には、ニンゲンを噛んではいけないということを覚えられない。少し抜けてるところがあった方が可愛げがあるというものだ。

 さらに知恵をつけたきゅーは、画期的な狩りを考案する。きゅーがダイニングで鳴くと、ニンゲンが猫のご飯を作りに来る(この一連に気付くだけでもIQが354くらいある)。そこで、きゅーはダイニングチェアの脚に体を潜ませて「にゃあ」とかわいらしく鳴く。まんまとおびき寄せらせたニンゲンがのんきに近づいてくるのを待って待って待って…、勇んで飛び出し獲物(ニンゲン)を捕らえるのだ。なんともまあ賢い猫である。例え丸見えでも、本猫としては隠れたつもりであり、うずうずと尻を揺らしながら飛び出すタイミングを今か今かと伺っている。そんな健気な姿を見たら、心を奪われて罠にかかってしまうのがニンゲンというものだよ。もしかしてここまでが計算か。いやそんな馬鹿な、それはさすがにIQ12000になっちゃうよ。

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【ネコチャンと食卓】

 きゅーは、ニンゲンの夕飯中も自分のご飯と信じてやまない。陥落が容易いランキング堂々第1位にランクインした父の足で鳴くわ齧るわやりたい放題。「獣」「獣」と散々言ってきた父だが、何気に先陣を切ってきゅーを甘やかしていたのだ。かわいいから仕方ないね。

 なんて油断をしていたら、あっという間にダイニングチェアに跳び上がれるようになり、父の膝上に収まった。最近は夕飯の定位置になっている。どれだけ食べたかろうと、飼い主としてあげるわけにはいかない。父は、「やめてよ~」と今まで聞いたことのない弱弱しい声で抵抗を示す。誰だ。今にも絆されそうで、私の監視の目が光る。決して嫉妬ではない。もらえないことが分かると、次席の絆され候補のもとへやってくる。器用に私の背中を駆け上がり、肩の上で爛々とスタンバイ。いつでも食べられますよ、はいどうぞ。いやだから食べちゃダメだって。あなたさっきカリカリ食べたでしょう。鉄の意志で自分の口にだけせっせとご飯を運ぶ。首を伸ばしてネコチャンの猛攻を避け続けていたら、ここ最近で首が2cmほど伸びたと思う。

 騙されないでほしいが、こんなに可愛らしく寄ってくるのはご飯の時だけだ。その他は、噛みたい時しか寄ってこない。痛い。

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 過保護に過保護を重ねて約3か月。あれやこれやと心配されてきたが、今のところ順調に育っている。(と言おうとしたら今朝方捻挫した。)それもこれも、父母の努力と、みんなからの支援と、生きようとするきゅーの頑張りだ。猫らしかったり猫らしくなかったりするが、元気に生きていればそれが一番じゃん?

 存在しているだけで「かわいい」「かわいい」ともてはやされ、一挙手一投足に「天才!」「天才!」と声がかかる。ネコチャンは偉大なのだ。これからも、どうぞよろしく。

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